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先代のRaspberry Pi 4から性能が2~3倍向上したと話題のRaspberry Pi 5(以下Pi 5)。確かに動作速度は高速であるものの、実は注意ポイントの多い「くせ者」モデルであることはあまり知られていません。他のラズパイにはない注意すべき点は次のとおりです。
- 推奨電源が5V5A
- カメラコネクタが特殊
- 冷却ファンが必須
- pipで仮想環境が必要
- GPIOライブラリが一部非対応
自称ラズパイマニアの僕は、国内で技適の取得待ちのころからPi 5を入手して動作検証してきました。歴代のラズパイを使ってきた僕が、これまでのラズパイとの違いをメインに解説します。
SoC | Broadcom BCM2712 |
CPU | Cortex-A76 64-bit SoC @ 2.4GHz × 4(4コア) |
GPU | VideoCore VII 800MHz |
メモリ | 2GB、4GB、8GB LPDDR4X-4267 SDRAM |
有線LAN | 1000 Base-T |
無線LAN | IEEE 802.11b/g/n/ac 2.4/5GHz |
Bluetooth | Bluetooth 5.0 (Bluetooth Low Energy対応) |
消費電力 | 12W(ピーク時) |
大きさ | 85 × 56 × 18mm |
重量 | 47g |
参考価格 (スイッチサイエンス) | 4GB:11,550円 8GB:15,290円 |
購入時に注意すべき点
Raspberry Pi 5を購入する前に知っておくべき5つの注意点を、他のモデルとの違いという視点で解説します。
推奨電源が5V5A
Raspberry Pi 5には、5V 5AのUSB-C電源が推奨されています。Raspberry Pi公式の電源は日本国内で使用するためのPSEマークが付いていないため、執筆時点では国内で販売されていません。
推奨電源を使用しない場合、起動時に「周辺機器への電力供給は制限される」というメッセージが表示されます。
この制限はシステムの安定性を確保するためのものであり、Pi 5にUSB接続した周辺機器への電源供給が最大600mAまでとなります。5V 5Aの電源が認識されると、600mAの制限は1.6Aまで自動的に引き上げられます。
600mAは一般的なキーボード、マウス、USBメモリなどには十分ですが、消費電力の多いHDDなどを接続する場合に不足する可能性があります。ただし、警告メッセージが表示されてもPi 5の処理性能には影響しません。
秋月電子の「スイッチングACアダプター(USB ACアダプター) Type-Cオス 5.1V 3.8A」を使用すると、起動時に警告メッセージが表示されますが、実際には問題なく使用できます。
つまり、3.8Aの電源でも通常の使用には十分であり、高負荷のデバイスを多く接続しない限り、大きな問題は発生しません。
最近では5AのアダプターがAmazonで販売されています。試しにRasTechというメーカーの製品を買ってみたところ、警告メッセージも出ず、問題なく使用できました。国内で使用できることを示すPSEマークも付いています。
カメラコネクタが特殊
Raspberry Piのカメラモジュールは、高解像度の写真やビデオ撮影を可能にし、監視カメラシステム、タイムラプスビデオ、AIによる画像認識など、さまざまなプロジェクトに利用できます。
このカメラモジュールを接続するためのコネクタが、Pi 5では特殊なものが採用されています。Pi 5の0.5 mmピッチのコネクタは、従来の1.0 mmピッチのコネクタとは異なるため、カメラモジュールに付属しているケーブルが使用できません。
Pi 5で使用できるRaspberry Pi 5 FPCカメラケーブル(200mm)は数百円で購入可能であり、あらかじめ知っていれば大きな問題ではありません。
冷却ファンが必須
上記はPi 5とPi 4のCPU温度をグラフ化したものです。冷却ファンは使用せず同じ環境で測定したところ、Pi 5の方が7℃高い結果となりました。
Pi 5は、その高性能を発揮するために効果的な冷却が必要です。アイドル状態でもCPU温度が65℃近くに達することがあるPi 5は、負荷がかかったときにさらに温度が上昇します。長時間高温状態が続くと、システムの安定性や寿命に悪影響を及ぼす可能性があります。
最も効果的な冷却方法の一つはファンの使用です。僕が使っているRaspberry Pi 5用公式ケースにはファンとヒートシンクが付属しており、効率的に熱を放散します。これにより、CPU温度を適切に管理できます。
Pi 5には冷却ファン専用の4ピンコネクタが搭載されています。このコネクタは、ファンの電源供給と制御を行います。ファンはPWM(パルス幅変調)制御により、Raspberry Piの温度に応じて自動的に速度が調整されます。温度が60°Cに達するとファンが作動し始め、67.5°Cでは速度が上がり、75°Cでは最大速度に達します。
pipで仮想環境が必要
Raspberry Piでプログラミングをするにあたり、よく使われる言語のひとつがPythonです。Pythonではpipというパッケージ管理ツールを使うことで、さまざまなソフトウェア(パッケージ)を簡単にインストールできます。
インストールしたパッケージをPythonのプログラム内で呼び出すことにより、複雑な処理を短いコードで書くことができます。
Pi 5を使用する際、pipを使ってパッケージをインストールするためには仮想環境の作成が必要です。仮想環境とはプロジェクトごとに独立したPython環境を作成し、他のプロジェクトに影響を与えずにパッケージを管理するための仕組みです。
そのままpipを使うとエラーが出る
Raspberry Piカメラモジュールを制御するためのライブラリ「picamera2」をインストールしてみます。仮想環境を使わずにpipすると、次の画像のようにエラーが出てインストールできません。
仮想環境でpipを実行する
仮想環境の作成自体は1行のコマンドで可能ですが、ラズパイを起動するたびに仮想環境を有効にする必要があります。初心者にとっては、この仕様が難しく感じられるかもしれません。
仮想環境「myenv」を作成するコマンド
python3 -m venv myenv
仮想環境「myenv」を有効にするコマンド
source myenv/bin/activate
その後、以下を実行すると「picamera2」をインストールできます。
pip install picamera2
ライブラリの競合などの問題を回避するために仮想環境の作成は有効な手段であり、プログラミングの経験を積んでいくうえで必ず通る道です。この機会に仮想環境をマスターすることは、スキルアップに大いに役立ちます。
GPIOライブラリが一部非対応
Pi 5では、GPIOの制御に新しいチップが使用されており、これにより従来のGPIOライブラリが正常に動作しなくなっています。GPIOは「General Purpose Input/Output」の略で、Raspberry Piのピンを通じてLEDやセンサー、モーターなどの外部デバイスを制御するための仕組みです。
以下は従来からよく使われているGPIOライブラリです。
ライブラリ | Pi 5での使用可否 |
RPi.GPIO | 使用不可 |
gpiozero | 使用可能 |
pigpio | 使用不可 |
wiringPi | 使用不可 |
ラズパイに接続したLEDを点滅させるコードを試してみます。RPi.GPIOを使用した場合、以下のようにエラーが出て、LEDは光りません。
以下は上記のコードをgpiozeroに変更したものです。
from gpiozero import LED
import time
led = LED(18)
while True:
led.on()
time.sleep(1.0)
led.off()
time.sleep(1.0)
gpiozeroはPi 5に対応しているため、エラーが出ることなくLEDを点滅できました。
本やネットで公開されているプログラムを使いたいときには、使用するライブラリの確認が必要です。そのままのコードではPi 5で動作しない可能性があるため、注意しましょう。
Pi 5の良いところ
2024年時点で最新モデルであるPi 5が、他のモデルと比較して優れている点を紹介します。
起動が速い
Pi 5は起動時間が非常に短いです。以下は各モデルの起動時間を計測した結果です。このテストでは、すべて同一のmicroSDカードを使用しました。
モデル名 | 起動時間 |
Raspberry Pi 5 8GB | 22秒 |
Raspberry Pi 5 4GB | 22秒 |
Raspberry Pi 4 8GB | 37秒 |
Raspberry Pi 400 (4GB) | 34秒 |
Raspberry Pi Zero 2 W | 97秒 |
起動が速いと、アプリの立ち上がりやブラウザの動作も高速で快適に使用できます。
電源ボタン
Pi 5には、他のモデルにはなかった電源ボタンが搭載されています。従来のRaspberry Piでは手動でケーブルを抜き差しして電源を管理する必要があった不便さを解消します。ボタン操作による電源のオンオフやシステムの再起動が簡単に行えるようになり、使い勝手が向上しました。
高性能でも価格はPi 4と大差なし
Pi 5とPi 4の同じメモリ容量のモデルを比較すると、価格差は約千円です。以下は8GBモデルの比較です。
以下は4GBモデルの比較です。
千円程度の価格差であれば、最新の高性能モデルを試してみたいと思うのではないでしょうか。
Pi 5で試したこと
OSはRaspberry Pi OSの64-bit版をインストールしました。
Pi 5で最もやりたかったことはカメラモジュールを使った画像認識です。高速な処理が可能なのため、応答の速い作品が作れたことに驚きました。
TensorFlow Lite(軽量版の機械学習ライブラリ)を使って物体認識を行いました。物体を認識すると、その物体を四角で囲み、物体名と認識の確度を表示します。処理速度は11〜13FPS(1秒間に処理できるフレーム数)で、Raspberry Pi 4の3〜4FPSに比べて大幅に高速化しています。
物体認識の環境を作成するには、以下のコマンドを順に実行します。
sudo apt install libcap-dev
python3 -m venv ~/mp --system-site-packages
source ~/mp/bin/activate
pip install --upgrade pip
pip install picamera2
git clone https://github.com/googlesamples/mediapipe.git
cd mediapipe/examples/object_detection/raspberry_pi
sh setup.sh
以下は手のジェスチャーの形を認識しています。
まず、TensorFlow Liteを使って、手のジェスチャーを認識します。次に、MediaPipeというGoogleが提供するフレームワークを利用して、手のランドマーク(手の関節などの位置)を検出し画面に表示します。検出されたランドマークのデータを基に、モデルは各ジェスチャーに対応する確率を計算します。最も高い確率を持つジェスチャーがその場での認識結果として表示されます。Closed_Fistは拳の意味です。
スマートクロックのLaMetric TimeとPi 5は、Pi 5インターネットを通じて情報をやり取りしています。これにより、リアルタイムでジェスチャーの認識結果を視覚的に確認できます。
まとめ
本記事ではRaspberry Pi 5を購入する前に知っておくべき5つの注意点を紹介しました。いずれも致命的な欠点ではありませんが、事前に知っておくことで購入後のトラブルを避けられるでしょう。ネット上の情報はまだPi 5に対応していないものが多いため、注意が必要です。
これらを理解したうえで購入するならば、Pi 5は非常にパワフルで可能性を秘めたマシンといえます。
一方で、ラズパイにそこまでの性能を求めていないという声もよく耳にします。僕自身、8種類のラズパイを所持していますが、用途に応じてモデルを使い分けています。電子工作メインで使用することが多い僕にとってはPi 5はスペックを持て余していると感じることがあります。性能や新しさよりも、自分がラズパイで何をしたいのかを明確にすることで、失敗のない買い物ができるでしょう。
参考になりました。GPIO の使い方が違うとの事で、従来プログラムの書換えが面倒ですね。あとは、仮想環境っていうものの概念がまだピンときません。高速化はありがたいのですが、発熱も心配ですね。3B には小さなFAN を付けましたが、4 は大型ヒートシンクでFANレス運転してます。静かで快適です。もうしばらく 4 でガマンします。
コメントありがとうございます!
GPIOの変更は確かに書き換えが必要な場面があるので、少し手間ですよね。
仮想環境はPythonの異なるプロジェクト間でライブラリのバージョンを分けて管理できる便利なツールです。ちょっと難しく感じるかもしれませんが、慣れると環境の切り替えが簡単になります。
しばらくPi 4で楽しむのも良い選択だと思います!